『夏物語』川上未映子

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『乳と卵』に続いて読んでみた。

第1部は『乳と卵』のリライトで、第2部では約10年後の女性達を描く。
1部は大幅に加筆されていて、文体も変化している。2部で主人公の夏子は38歳、姉の巻子は48歳、巻子の娘緑子は大学生になっている。

 

2部がメインで、分量も1部の倍以上ある。
AID(配偶者以外からの精子提供による人工授精)という生殖倫理がテーマの話だ。
ここでは詳しくは書かないけど、人が生まれてくること、産もうとすることへの
問いかけ、生きづらさを感じる登場人物の心情描写が素晴らしい。深い余韻が残る。

また関西弁を交えた語りのユーモアがアクセントになっている。文章は豊かな詩情を感じさせてとてもいい。作者の持てる力を出しきったような力作だ。

 

また『乳と卵』のブログで書いたけど、緑子の将来が気になっていた。2部で大学生になった緑子は楽しそうで、重いテーマの中、ここは良かった。
この作品では、2回出てくる観覧車の描写が印象深いけど、その中で緑子と夏子が乗るシーンは特に心に残ったな。