『BUTTER』 柚木麻子

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読み始めると分かるけど、ある連続不審死事件をモチーフにした長編小説だ。ただし現実の事件の真相解明を試みたものではない。

 

東京拘置所に勾留中されている被告人・梶井真奈子(通称「カジマナ」)と、彼女からの独占インタビューを狙う週刊誌記者・町田里佳とのやりとりを中心にしている。

料理が好きなカジマナの歓心を得ようと、里佳はカジマナからバターたっぷりの料理を教わる。
濃密な料理小説の一面もあり、バターはその象徴。美味しそうなのだが、少しこってりした料理が次々と出てくる。

里佳の親友の伶子も加わり、女性たちの様々な葛藤が描かれる。その内面の描写はこの作者ならでは。

カジマナの犯罪についてはよく分からないところもあったが、引き込まれて最後は一気に読んだ。 

(追記)

これは関係ないけどTOEICの話

TOEICは以前825点だった。800を超えてればいいのだが、最近は900以上の人が増えていて、また受けようかとちょっと迷ってる。(去年から考えていて書いたこともある。)

前は殆ど準備しなかったので、参考書を買ってみた。リスニングはいいんだけど、リーディングの量が多いな。(前も時間が足りなかった記憶が。)

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『私が語りはじめた彼は』 三浦しをん

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この作者は久しぶりに読んだ。フォロワーの方のお勧めだ。

 

6短編の連作集で、中心にいるのは村川という大学教授。彼は表舞台には登場せず、内面が語られることは無い。女性たちは彼に惹かれるのだが、どこに魅力があるのか謎だ。

物語は彼の周りの男性たちが語る形式で進んでいく。大学の研究室の弟子、息子、娘の婚約者、再婚相手の娘の隣人などが登場するのだが、語る人物によって彼の姿は変化していく。

 

作者がの初期の作品だけど、構成が巧い。真実が見えない中、彼に振り回される人々、男女のドロドロした関係を抑制されて静謐な筆致、研ぎ澄まされた文章で紡ぐのは見事だと思った。

この作者の初期作品の『月魚』が積読にあったので、また読んでみたい。

(追記)
あとこの作者の『舟を編む』の映画を見逃してるのに気づいたので、今度観たい。原作と映画を両方楽しむのが好きだ。去年よかったのは『アイネクライネナハトムジーク』や『愛がなんだ』。その他『ティファニーで朝食を』など。

 

映画 『ラストレター』

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手紙をモチーフに、2つの世代が交差するラブストーリー。繊細な演出と映像美が素晴らしい。岩井俊二監督の作品は殆ど観ていてファンだ。

姉・未咲の葬儀に参列した裕里(松たか子)は、未咲の娘・鮎美(広瀬すず)から、未咲宛ての同窓会の案内状を渡される。
未咲の死を知らせるため同窓会へ行った裕里だったが、高校の生徒会長で人気者だった姉と勘違いされてしまう。

会場で初恋の相手・鏡史郎(福山雅治)と再会した裕里は、未咲のふりをしたまま彼と文通することになる。やがて、その手紙が鮎美のもとへ届いてしまったことで、夏休みで鮎美の家に滞在していた裕里の娘の颯香(森七菜)と、鮎美も鏡史郎と文通することになり、鏡史郎は高校時代の未咲と裕里との思い出を話し始める……


高校生時代の未咲を広瀬すず、高校生時代の鏡史郎を神木隆之介がそれぞれ演じている。


この映画は初の長編作品『Love Letter』との関連を思い出させる。手紙がモチーフ、始まりがお葬式と法事とか、図書館と図書室など。

演出がうまいのだろう、福山雅治神木隆之介は雰囲気が似ていた。また松たか子と森七菜も仕草がそっくりなところがあった。広瀬すず一人二役も素晴らしかった。そして福山雅治が印象的だった。妻によると(この映画は観ていない)、彼は演技が今一つらしいけど、これまでの作品とは異なるキャラクターを上手く演じていた。

これはツイートに書いたけど、高校の階段で広瀬すず神木隆之介に言うセリフ、原作にも出てくるのだが、個人的に印象に残っていて胸が熱くなった。ここはもう一度観たい。

今年のベスト映画が決まったような感じがする、お勧めの作品。

 

『夏物語』川上未映子

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『乳と卵』に続いて読んでみた。

第1部は『乳と卵』のリライトで、第2部では約10年後の女性達を描く。
1部は大幅に加筆されていて、文体も変化している。2部で主人公の夏子は38歳、姉の巻子は48歳、巻子の娘緑子は大学生になっている。

 

2部がメインで、分量も1部の倍以上ある。
AID(配偶者以外からの精子提供による人工授精)という生殖倫理がテーマの話だ。
ここでは詳しくは書かないけど、人が生まれてくること、産もうとすることへの
問いかけ、生きづらさを感じる登場人物の心情描写が素晴らしい。深い余韻が残る。

また関西弁を交えた語りのユーモアがアクセントになっている。文章は豊かな詩情を感じさせてとてもいい。作者の持てる力を出しきったような力作だ。

 

また『乳と卵』のブログで書いたけど、緑子の将来が気になっていた。2部で大学生になった緑子は楽しそうで、重いテーマの中、ここは良かった。
この作品では、2回出てくる観覧車の描写が印象深いけど、その中で緑子と夏子が乗るシーンは特に心に残ったな。

『私をくいとめて』 綿矢りさ

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久しぶりに再読した。綿矢りさは好きな作家だけど、新作が出るのが先になりそうで、それまではこうして読み返している。小説以外の、エッセイとか書いてくれるといいんだけど。

 

主人公みつ子は32歳の独身OLで、どちらかと言うとひとりが気楽、恋人はいなくてマッタリと生きている。困ったときは脳内にいる「A」が答えを教えてくれる。
「A」との会話がこの物語のポイントだ。

結婚してローマに住む友人を訪ねるところは、分量も多くて力が入っている。
イタリアはミラノには仕事で行ったことがあるけど、ここを読むとローマに行きたくなるな。

 

取引先の多田くんといい感じになって、という辺りから急速に展開する。最後、「A」が主人公の背中を押す場面の描写は、切なさを感じさせてさすがにうまい。終わり方もよかった。

(追記)
先週末は仕事納めだった。

今年も仕事は大変だったけど、まあ全体的には頑張ったかな。ストレスが溜まりがちだったのは、それは皆同じか。とにかく、終わったので嬉しい!

『乳と卵』 川上未映子

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先にツイートした作者の村上春樹へのインタビュー(『みみずくは黄昏に飛びたつ』)を読んで、芥川賞を受賞したこの本に興味があったけど、まだ読んでいないのを思い出した。

最初はとても長くて、饒舌な文体に戸惑った。でも読んでいるうちに巧みにコントロールされていることに気付く。関西弁がよいアクセントになっていて素晴らしい文章だ。

 

東京で暮らす夏子(物語の語り手)の所に、大阪から母巻子と娘の緑子がやってくる。巻子は夏子の姉で、少し病んでいるのか豊胸手術のことしか頭にない。緑子は反抗期で母と口を利かず、筆談で話している。


夏子は2人を心配していて、というところから話は動き出す。ここから先はネタバレなので書かないけど、3人の3日間の物語、ユーモラスで哀感漂う描写が印象に残る傑作だ。そして読み終わって緑子の将来が気になった。

この物語は、最新刊の『夏物語』に繋がっているそうで、こちらも読んでみたい。

(追記)

昨日まで忘年会がいろいろあったけど終了した。会社関係と友人関係。最近はイルミネーションが目立つ通りが多い気がするな。そして綺麗だ。まあ酔うとキレイに見えるのかもしれないけど。

『ウォーク・イン・クローゼット』 綿矢りさ

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久しぶりに再読。表題作の主人公早希は28歳のOLで、少し前に別れてから恋人を探している。彼女が武器とするのは男性受けのいい清楚系ファッションで、クローゼットの服を戦闘服に見立てて、いろんな男性相手にデートを重ねる。幼馴染のタレントだりあや、昔フラれた年下のショップ店員のユーヤと共に物語は進行する。

 

主人公は、他人からどう見られるか、を気にしていて、そのせいもあって恋愛がうまくいかない。少し空しく感じるあたりの描写は上手い。

ある騒動で親友だりあが追いつめられる。最後までハラハラする展開で楽しめる。
この2人は、作者の最新作『生のみ生のままで』の逢衣と彩夏に繋がるような気がしたけど。

 

もう一つの『いなか、の、すとーかー』は不気味な話で、東京から郷里に帰った陶芸家が、ファンの女性ストーカーに悩ませられる。主人公が予想外の反応に戸惑うところはリアルだった。
作者も10代でデビューして注目され、思いがけない受け止められ方などに悩んだことがあるだろう。そうした経験が反映されているのかと感じた。