映画 『ノルウェイの森』
この映画の原作を愛読している。最も好きな小説の一つだ。映画は映像は美しいのだが、イメージが固まっているためか不満が残る。
直子(菊地凛子)が僕(松山ケンイチ)に「私のことをいつまでも忘れないでくれる?」と言うのは、最後の方ではなく原作通り最初にしないと。重要な伏線で、暗示しているのが台無しでしょう。
また、僕が緑(水原希子)の父親と病院で会うシーンでは、キュウリの話をしてほしかった。あのエピソードが無いと締まらない感じがする。
あと、レイコさん(霧島れいか)は最後に僕を訪ねて、そして僕と寝るのだが、その時原作ではレイコさんは直子の服を着ているけど、映画でははっきりしない。これも不満だ。
その他、直子のイメージは菊地凛子とはちょっと違うな。まあこれは個人的な感想だけど。
と色々並べたけど、印象的なシーンもあった。緑との会話や、療養所で直子と会うところなどで。松山ケンイチの演技はよかった。
登場するフレンチレストランは、西麻布のオーベルジュ・ド・リル トーキョーが使われたそうだ。
(追記)
直子の大学は津田塾だと聞いたことがある。ここは、大学の時のサークルにいて、また卒業生のいとこもいるし親近感があるな。これも個人的などうでもいい話だけど。
『意識のリボン』 綿矢りさ
8編が入った短編集で再読。恋愛についての小説が多い作者だが、この作品は恋愛ではなく日常を様々な視点で書いている。
太宰治を思わせる饒舌な独白の『こたつのUFO』が面白かった。作者は太宰治が好きだと書いていたのを思い出した。
『履歴の無い女』はマリッジブルーを覚える姉の話。既婚の妹が語る女性の順応性が印象的、また人生の履歴と携帯の履歴を比較するところは斬新だった。
表題作の『意識のリボン』は交通事故に遭い、死にかけた女性が生還するまでの間、これまでの人生の記憶をたどる。
「意識にリボンを結んだら」世界はどう見えるのか、ふくよかな余韻が残る。
全体的に、人生の様々なイベントに直面して悩みながらも、しなやかに対応する女性たちの描写が見事だ。結婚、出産を経験した作者の視点が現れていると思った。
文章は相変わらず素晴らしい。個人的には村上春樹と並んで、最もうまい作家だと感じる。デビューした時からほぼ完成されていたので、これは才能としか思えない。
ところでツイッターは字数制限があるけど、うまい人はいる。フォロワーの方にもいて、ブログを読むと素晴らしくて何度も読み返したりしている。まあそういう人は殆どいないけどね。
『屍人荘の殺人』 今村昌弘
今度12月に映画化される原作を読んでみた。
ホラー小説の題材を使ったミステリだが、文章は軽い感じで読みやすい。
大学ミステリ愛好会の葉村譲と明智恭介は、同じ大学の探偵の剣崎比留子と共に、映画研究会の夏合宿に参加する。映画研究会に脅迫状が届いていて、辞退者が続出していたからだ。という出だしから始まる。閉ざされた空間での密室殺人を、剣崎比留子達が解決するというストーリー。
作者はこれがデビュー作で、最後までハラハラする展開で楽しめる。
但し、中心人物の一人がいきなり消えてしまうのはよく理解できなったけど。
また人物の描写は、まあデビュー作なので仕方ないけど少し不満が残った。
『上流階級 富久丸百貨店外商部 其の二』高殿円
第一作に続いて第二作を読んでみた。フォロワーの方のお勧めの本だ。
外商部で働く主人公(鮫島静緒)がお客からの難題に立ち向かうお仕事小説。外商部という一般になじみのない世界をリアルに描写している。
今回は、主人公と同僚の桝家修平が感じる孤独、生きづらさ-それは静緒も同様に感じている-を通じて、普通に生きることの意味を考えさせられる。
個性豊かな登場人物とのやりとり、外商の枠を超えた提案、静緒が成長していく姿を楽しめる。
読み終わると元気になる小説で、最後をみるとまだ続編がありそうな感じで期待したい。
竹内結子主演で2015年1月にドラマ化されていて、これは知らなかった。桝家修平は斎藤工で、ちょっとイメージと違うけど。それはともかく観たかったな。
『伊藤くんA to E』 柚木麻子
『幹事のアッコちゃん』に続いて柚木麻子を読んでみた。
5編の連作短編集の恋愛小説。2018年に映画になっているのだが、これは観ていない。
テンポよく話が進んで楽しめるけど、伊藤君はリアルさを欠いていて、ちょっとよく分からない彼は謎めいている。何と言うかとてもイタい男だ。そしてその伊藤君に振り回されている周りの女性もイタくて、不思議な感じを受ける。
女性たちは、最後は伊藤君を反面教師にして立ち直っていく。それはそうでしょう、と思うのだが、まあ色々見えなくなることもあるのかな。最終章の崩壊した雰囲気は面白かった。
全体的に、嫉妬心などの鋭い心理描写はこの作者ならではで、柚木麻子ワールドを楽しめる作品だ。
次は『上流階級 富久丸百貨店外商部 其の二』を読みたい。
(追記)
ネタバレにならないように書いたら、すごく曖昧な文章になってしまった。でも楽しめるのでお勧めです。
『幹事のアッコちゃん』 柚木麻子
『ランチのアッコちゃん』『3時のアッコちゃん』に続くシリーズ第3弾。
「東京ポトフ&スムージー」の社長として活躍するアッコさんだが、相変わらず面倒見がいい。しかし、今回は違った一面を見ることができる。
それでもストーリーはいつものパターンなので、安心して読むことができるけど。
クールな宴会嫌いの男性新入社員に忘年会幹事のコツを教える表題作を始め、4話どれも楽しめる。
テンポよく、月曜から金曜までの5日間についての出来事が語られる。個人的には
金曜に感じる、やっと今日で一週間が終わりだ、という高揚感やホッとする気持ちも書いてほしかったところだ。まあクライマックスが金曜なので難しいかな。
シリーズの最初から登場する三智子が今回、とても成長していて驚かされる。
そしてラストの「祭りとアッコちゃん」がスケールの大きな話で面白かった。続編があるか分からないが期待したい。
但し今回はインパクトのある食べ物、飲み物が無かったのが残念だ。この間観た映画に出てきたポトフが美味しそうで、大根おろし入りポトフを思い出して懐かしかった。
『上流階級 富久丸百貨店外商部 其の一』高殿円
フォロワーの方のお勧めの本だ。
兵庫県芦屋市の百貨店を舞台に、外商部で働くことになった主人公(鮫島静緒)が、
多額のノルマを抱えながら奮闘する姿を描くお仕事小説。
バイトとして洋菓子店で働いていたところを、優秀さを買われて引き抜かれた主人公なのだが、その仕事ぶりはなかなか痛快だ。
主人公の周りを取り巻く人達も個性的で、中でも同僚の桝家修平との不思議な関係が面白い。ドラマ化すると彼は誰かな、高橋一生とか(少し違うか)、など考えながら読むのも楽しい。
外商の世界にリアリティーを感じるのは、作者が関係者に綿密に取材したからだろうと思う。もしかして外商の経験があるのかもしれないが。
この作者は初めて読んだけど、とても面白かった。表紙もきらびやかで手に取ってみたくなる。続編もあるので読んでみたい。