『私を離さないで』カズオ・イシグロ
舞台は1990年代末のイギリス。SF的な設定だ。31歳のキャシーという女性が、自分の育ったヘーシャムという全寮制の施設を思い出す。そこでの回想を読んでいくと、自分の知っている学校生活とだいぶ違うことに気づく。
行事や先生の言動が奇妙だ。外部と隔離されたこのヘーシャムは何なのかを考えながら読み進める。
謎は徐々に明らかになるのだが、運命に抵抗しようとしてもがくけど、最後はどうしようもなく引き裂かれる恋人達が切ない。
キャシーの絶望感とやりきれなさを感じて共有することになる。そしてラストシ-ン
を読んだ後の悲しみは、長く残って胸を打つ。感情に強く訴えかける名作だ。
「顔には涙が流れていましたが、私は自制し、泣きじゃくりはしませんでした。しばらく待って車に戻り、エンジンをかけて、行くべきところへ向かって出発しました。」