『手のひらの京』綿矢りさ

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この作品も谷崎潤一郎の『細雪』を下敷きにしている。こちらは三人姉妹だが。
上から31歳の綾香、20代半ばの羽依、20代初めの凜。奥沢家の三姉妹は両親と暮らしている。

まず題名がうまい。「手のひらの」という表現は、周りを山で囲まれた盆地のイメージからだろうか、素晴らしいと思う。

着物や食べ物の書き方は『細雪』を意識したのかな。そして京都の四季折々の風景や伝統行事が出てくるのがいい。5月の新緑、祇園祭、五山の送り火、秋の紅葉、正月の神社参拝など。こうしたことを背景に、三人姉妹の喜びや悩みが語られるのは『細雪』のようだ。

 

羽依が京都弁でタンカを切るシーンは『かわいそうだね?』と同様に迫力があり読みどころだ。
また凜は「ある計画」を密かにもくろむのだが、彼女が感じる閉塞感は作者も経験があるからか、リアルに描かれる。

綾香が祇園祭に行く場面では、知り合いに会う可能性があるので一緒に行く友達がいないと恥ずかしいとか、地元の人にとっては町内のお祭りと変わらない感覚だとか、京都をよく知る作者ならではの描写も楽しめる。

これまで作者が書いてこなかった故郷を舞台にした、思い入れの感じられる作品だ。映画化を期待したい。